所有者不明土地の利用円滑化を図る方策としての民法の改正(4/4回)
所有者不明土地の利用円滑化を図る方策としての民法改正のうち、前回までに、①財産管理制度の見直し、②共有制度の見直し、③相隣関係規定の見直しについて紹介させていただきました。
今回は、その民法改正4本柱の最後、④相続制度の見直しについて紹介させていただきます。これも、令和5年4月1日から既に施行されています。
相続が開始して、相続人が複数存在する場合、遺産(相続財産)に属する土地・建物、動産、預金などの財産は、原則として相続人の共有(遺産共有といいます)になります(改正前民法898条)。
遺産共有関係は、本来、遺産分割により速やかに解消されるべきものです。しかし、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて、多数の相続人による遺産共有関係になると、遺産の管理・処分が困難になり、そのうち相続人の一部の所在等が不明になるということが少なくありませんでした。
そこで今回の民法改正では、重要なこととして、具体的相続分による遺産分割に時的限界を設けることになりました(民法904条の3)。
民法では、906条以下に遺産分割のことが定められており、遺産分割の基準は、法定相続分又は指定相続分ではなく、具体的相続分の割合によることとされています。
ここで、法定相続分とは民法であらかじめ定められている画一的な割合(例.配偶者と子2人が相続する場合は、配偶者1/2、子1/4ずつ)のことであり、指定相続分とは遺言により被相続人等が指定した割合のことをいいます。
他方、具体的相続分とは、法定相続分・指定相続分を、事案ごとに特別受益(生前贈与など)や寄与分のことを考慮して修正して算出する割合のことをいいます。
しかし、相続開始後に遺産分割がないまま長期間が経過すると、特別受益や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れ、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがあります。
そのことを受け、今回、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分)によることとしたのです。
これにより、具体的相続分による分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果が期待できます。また、具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に分割を行うことが可能になるということです。
以上、本コラムでは、所有者不明土地の利用円滑化を図る方策としての民法の改正について、4回に分けて簡単に説明させていただきました。
簡単にと申し上げましたが、慣れない人にとっては難しいことが多いですし、弁護士であっても、新たに見直し・創設となった法制度がどのように運用されていくのか読めないところもあります。
本コラムをご覧いただいている方には、共有不動産をお持ちの方や、相続を控えている方、既に相続が問題になっている方がいらっしゃると思います。ご不安なことがある場合は、ぜひお近くの弁護士等へご相談になられることをお勧めします。