所有者不明土地の利用円滑化を図る方策としての民法の改正(1/4回)

 わが国では今、所有者不明土地のことが重要な問題になっています。しかも今後、高齢化の進展による死亡者数の増加が見込まれるため、ますます深刻化すると懸念されています。
 そのため、国は、所有者不明土地等の発生予防と利用円滑化の両面から、法制度の見直しを進めています。このコラムでも、過去に、相続登記の申請義務化、相続土地国家帰属制度のことを紹介してきましたが、これらは発生予防のための法制度ということができます。
 他方、今回紹介させていただきたいのは、土地利用の円滑化を図るための民法改正です。大きくは、①財産管理制度の見直し、②共有制度の見直し、③相隣関係規定の見直し、④相続制度の見直し、の4本柱からなっています。いずれも、令和5年4月1日から既に施行されています。本コラムではできるだけ簡単に紹介していくことを考えていますが、それでも4回に分けて紹介させていただきます。

 今回は、その1回目として、①財産管理制度の見直しについてです。

 これまで財産を管理する人がいない場合の制度として、不在者財産管理人(民法25条1項)、相続財産管理人(相続財産清算人(現在)、民法952条1項)がありました。
 しかし、いずれも「人単位」の仕組みで、問題となっている土地・建物以外の財産も調査・管理しなければならず、非効率になりがちでした。また、所有者を全く特定できない土地・建物については、財産管理制度を利用することができませんでした。さらに、所有者が判明している場合でも、管理不全状態にある土地・建物について継続的に適切な管理を講ずる仕組みがありませんでした。
 そこで今回の民法改正で、新たに「所有者不明土地・建物の管理制度」(民法264条の2~264条の8)、「管理不全土地・建物の管理制度」(民法264条の9~264条の14)という「物単位」の仕組みが創設されました。

 所有者不明土地・建物管理制度は、調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができない土地・建物について、必要があると認められるときは、利害関係人が不動産所在地の地方裁判所に申し立てることで、管理人を選任してもらうことができる制度です。
 管理人は、管理処分権を専属的に有し、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物取壊し等)をすることも可能になります。

 管理不全土地・建物管理制度は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認められるときは、利害関係人が不動産所在地の地方裁判所に申し立てることで、管理人を選任してもらうことができる制度です。
 管理人は、管理処分権を有し、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、これを超える行為をすることも可能になります。管理人が行う行為としては、ひび割れ・破損が生じている擁壁の補修工事やゴミの撤去、害虫の駆除が想定されています。
 所有者不明土地・建物管理制度と異なるのは、土地・建物の処分(売却、建物の取壊し等)をするには、その所有者の同意が必要になるということです。また、管理処分権は管理人に専属せず、管理不全土地・建物に関する訴訟においては、所有者自身が原告又は被告になります。

 これらの制度が創設されることによって、所有者が不明であったり、所有者が適切に管理していなかったりする土地・建物について、その土地・建物に特化した財産管理が可能になるということです。

 今回は、所有者不明土地の利用円滑化を図る方策としての民法改正のうち、①財産管理制度の見直しについて紹介させていただきました。
 ②以下については、引き続き紹介させていただきたいと考えておりますので、ご覧いただければ幸いです。