事業承継をバブルにしてはいけない

 ―昨年の休廃業・解散件数は、前年から減少したものの、民間調査が開始された2000年以降で過去3番目の高水準となっている。
 令和4年4月26日に中小企業庁が公表した「中小企業白書・小規模企業白書 概要」には、このような記載があります。

 さらに、中小企業庁ウェブサイトの資料を見ていくと、令和7年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定で、現状を放置すると、令和7年までの累計で650万人の雇用、22兆円のGDPが失われる可能性があると書かれています(中小企業の経営資源集約化等に関する検討会(第1回)配付資料)。
 実は、休廃業・解散事業者の損益を見ると黒字廃業の比率は6割を占め、後継者不在の中小企業は、仮に黒字経営であっても廃業等を選択せざるを得ない状況であり(事業承継ガイドライン改訂検討会(第1回)配布資料)、事業承継がわが国経済にとって喫緊の課題であることは明らかです。
 そこで国は、「事業承継・引継ぎ補助金」を創設し、事業承継を支援する取り組みを始めました。

 これを受けて、今、事業承継を取り巻くビジネスは活況を呈しています。特に、事業を第三者に売却するM&Aの仲介会社がその中心です。折しも、週刊ダイヤモンドが「事業承継バブル M&Aのカネと罠」(令和4年3月19日号)、週刊東洋経済が「企業買収 プロたちの闘い ザ・M&Aマフィア」(令和4年3月12日号)といった特集を組んでいるのも、その現れの1つでしょう。

 ただ、M&Aだけが最良の事業承継方法ではありません。中小企業庁の分類に従うと、事業承継手法には、①親族内承継、②従業員承継、③社外への引継ぎがあり、M&Aは③の一つに過ぎないのです。
 しかしながら、M&Aを実現すると多額の仲介報酬が動くため、M&Aビジネスが事業承継の中心になっているきらいがあるように感じられます。

 冒頭に述べたように、事業承継問題は、わが国経済をどうすれば永続的に発展させることができるかにつながっています。また、個別企業の経営者も、自分が育ててきた事業を後継者がうまく経営してくれることを願っているはずです。
 事業承継を単純なM&Aでとらえるのではなく、承継後の事業継続(さらに発展)まで含めて、公平かつ長期的な視野でとらえることが重要です。そうでなければ、上記雑誌のタイトルにあるように、事業承継はバブルで終わってしまいます。

 事業承継を実現方法や承継後の経営まで考えて、法的観点から公平かつ長期的な視野でとらえるのは、弁護士が本来得意としている仕事です。しかしながら、弁護士の多くは、これまで中小企業の事業承継に対して積極的にアプローチしていなかったと考えています。
 それ故、中小企業経営者の方々が、弁護士へ事業承継の相談をすることも多くありませんでした。事業承継をバブルにすることなく、各企業ひいてはわが国経済の永続的発展に資するため、弁護士は中小企業経営者の方々のご相談を受ける立場になるべきです。あかとき法律事務所では、社会的使命感をもって事業承継に取り組んでいきたいと考えています。