そもそも相続とは、どういうものですか。

民法896条本文は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。相続というのは、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することです。世の中で相続といえば、とかく権利(例えば、土地や家)の承継が注目されますが、義務(例えば、借金)も承継します。

もっとも、同上ただし書が「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」としており、例えば生活保護受給権や雇用契約に基づく労働債務などは承継しません。また、祭祀財産(例えば、仏壇、お墓)は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することになっています(民法897条第1項)。

相続の基本ルールはどうなっていますか。

国によって異なりますが、わが国では、遺言のある場合は遺言を優先し、遺言の無い場合は法定相続になります(民法902条第1項)。しかし、一定の法定相続人に対しては遺留分が認められているので(民法1042条第1項、2項)、遺言が完全に優先するわけではありません。

遺言には、どのようなものがあるのですか。

普通方式の遺言として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります(その他、緊急時などに書く特別方式の遺言もあります)。このうち、公正証書遺言が年間9万7,700件(令和2年、日本公証人連合会)、自筆証書遺言が年間1万8,625件(令和元年、裁判所司法統計)あるのに対し、秘密証書遺言は年間100件程度と言われています。したがって、実務的に重要なのが、自筆証書遺言と公正証書遺言です。

自筆証書遺言は、どうやって作成するのですか。

全文、日付及び氏名を自書した上で、押印する必要があります(民法968条第1項)。財産目録について、自書する必要はありませんが、毎葉に署名、押印しなければなりません(民法968条第2項)。このように形式が定められており、守らないと無効になってしまいます。

公正証書遺言は、どうやって作成するのですか。

2人以上の証人立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(くじゅ)します。公証人は、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせます。遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、押印します。その上で、公証人は、以上の方式に従って作ったものである旨を付記し、これに署名押印して完成します(民法969条)。

弁護士に依頼した場合、通常は、弁護士が遺言者(依頼人)と相談して遺言の文案を作成し、事前に公証人と相談しておくことが多いと思います。その上で、証人の準備を含めて、公証役場へ行く日程を調整することが多いと思います。

なお、口がきけない方や、耳の聞こえない方でも、公正証書遺言をすることができるようになっています(民法969条の2)。また、入院などのため公証役場へ行くことのできない方のため、公証人が、病院、ご自宅等へ出張して、公正証書を作成することも可能です。

秘密証書遺言は、どうやって作成するのですか。

遺言者が、証書(遺言の内容を記した書面)に署名押印した上で、封筒に入れ、証書と同じ印章を用いて封印します。遺言者は、公証人1人及び証人2人以上の前にこの封書を提出し、自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述します。公証人は、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに封紙に署名押印することによって完成します(民法969条)。

自筆証書遺言と異なり、全文及び日付の自書が求められていませんので、パソコンで作成したもの、第三者が筆記したものでも大丈夫です。しかし、署名は、遺言者自身でしなくてはなりません。

自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のうち、どれが良いですか。

もちろん、それぞれに長所・短所があります。しかし、私は、公正証書遺言をおすすめします。

そもそも、遺言書は何のために作成するのでしょうか。遺言者の生前の思いを、自分の死後にのこされる人たちに伝え、円滑に承継してもらうために作成するのではないでしょうか。遺言が、のこされる人たちの争いの種となっても仕方ない、とわかって遺言をするような人はいないでしょう。

自筆証書遺言・秘密証書遺言は、遺言者本人が保管するのが原則ですから、紛失するおそれがあり、また死後すぐに遺言書が発見されず、遺産分割が終わった後にひょっこり発見されることにもなりかねません。それだけでなく、何と言っても自分だけで作成するのが建前ですから、遺言能力の有無、改ざんなどが問題になるおそれがあります。なお、令和2年7月からは、自筆証書遺言書保管制度ができました。この制度を利用すれば、法務局が自筆証書遺言を保管してくれますので、紛失のおそれはなくなりました。しかし、遺言の内容について法務局は相談に応じてくれませんので、依然として遺言が無効になるおそれは残っています。

公正証書遺言は、公証人があらかじめ遺言内容を確認しますし、2人以上の証人の下で口授するので、遺言が無効になる可能性は他の方法に比べて圧倒的に低いということができます。また、原本が公証役場に保管されますので、遺言書がなくなったり、隠匿や改ざんをされたりするおそれがありません。

公正証書遺言については、公証人に支払う手数料が数万円必要となります(具体的な金額は、日本公証人連合会ウェブサイトで確認できます)。しかし、上述の目的を達成するための必要経費だと考えれば、納得していただけるのではないでしょうか。

遺言が無い場合、法定相続人は相続しないといけないのですか。相続放棄はできますか。

家庭裁判所へ相続放棄する旨を申述すれば、相続放棄することができます(民法938条)。相続放棄をした者は、その相続に関して、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。しかし、相続放棄は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりませんので(民法915条第1項本文)、注意してください。

遺産分割協議がまとまりません。どうすればよいですか。

相続人全員で遺産分割協議を開始し、うまくまとまれば良いのですが、まとまらないことがあります。その場合は、家庭裁判所へ、遺産分割調停を申し立てて、解決をはかることになります。調停は、調停委員が公平な第三者の立場から話し合いに参加し、解決を目指します。それでもまとまらず、調停不成立(不調)になった場合は、遺産分割審判に移行し(家事事件手続法272条第4項)、裁判所が判断します。審判に不服がある場合は、さらに即時抗告をすることができます(家事事件手続法85条第1項、198条第1項第1号)。

調停や審判は、弁護士に依頼しないで自分でもできますか。

自分ですることは可能です。しかし、裁判所へ提出する書面を作成するのは手間がかかりますし、長期間に及ぶ調停・審判を自分だけで対応するのは大きなストレスがかかります。弁護士に依頼することをお勧めします。